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東京高等裁判所 昭和47年(く)206号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨および理由は、弁護人石井元作成名義の抗告申立書に記載されたとおりであるから、これをここに引用し、これに対して、当裁判所は、次のとおり判断する。

所論は、要するに、原決定が刑事訴訟法第九六条第一項第四号に該当すると認めたのは誤りであるから、原決定を取り消されたいというにある。

そこで、本案被告事件記録および本件抗告事件記録を調査して検討すると、被告人は昭和四七年六月二日東京地方裁判所に、被告人は常習として、MおよびKと共謀のうえ、昭和四七年五月一三日午前零時一五分頃東京都北区王子一丁目九番五号キャバレー「女の世界」前路上においてY(当二三年)、F(当二三年)およびT(当二七年)の三名に対して夫々傷害を負わせ、H(当二一年)に対して暴行を加えた旨の事実につき暴力行為等処罰に関する法律(第一条ノ三)違反の罪名で身柄拘束のまま起訴され、同年六月九日付保釈許可決定記載の指定条件の下に保証金を五〇万円と定められて保釈を許可され、即日釈放された者であるところ、同年一一月八日検察官から刑事訴訟法第九六条第一項第三号第四号に該当するとして保釈取消の請求がなされ、原裁判所は同月一六日「被告人が刑事訴訟法九六条一項四号に該当する行為をなし、指定条件に違反した」との理由により、前記保釈を取り消し保証金五〇万円を没取する決定をなし、翌一七日収監手続がなされたことが明らかである。そして、原審における審理の経過をみると、被告人は同年七月二一日に起訴された前記Kと併合審理され、同年八月二一日の第一回公判において、被告人は共謀の点を否認し、右Kと相手方らとの喧嘩の仲裁に入ったが相手方が多数のため暴行したにすぎない旨の陳述をなし、同公判においては同意書面として診断書三通の取調と検察官請求の証人五名の採用決定がなされ、同年一〇月三〇日の第二回公判において証人Y(前記キャバレーのバーテン)および同S(同キャバレーの支配人)の尋問と被告人および相被告人Kに対する質問がされ、同年一一月八日の第三回公判においては、予定された検察官請求の証人Fは所在不明で出頭せず、被告人らに対する質問があって、次回は同年一二月二五日ということで続行されている。ところで、被告人は右第二回公判後の同年一一月四日午前零時三〇分頃東京都北区王子一丁目一七番一号先路上において、M、Nと共謀のうえ前記Yに対し共同して暴行を加えたとして、暴力行為等処罰に関する法律違反の被疑事実により同月八日逮捕され引き続き同月一〇日勾留されて取調を受け、それが検察官の保釈取消請求および原決定の理由とされたものであることが明らかであるところ、同月二八日被告人は嫌疑不十分の理由をもって不起訴処分となり釈放されたことが認められる。

しかしながら、被告人が右M、Nの暴行に共謀加担したことの証明はなく、したがって被告人には直接且つ厳密には刑事訴訟法第九六条第一項第四号に該当する行為があったとはいえないとしても、原決定は前記のとおり被告人が指定条件に違反したことをも保釈取消の理由としているのであるから、原決定をもって直ちに誤っていると即断するのは当らない。被告人は、同年一一月三日夜前記キャバレーの支配人Sに対し本件の示談交渉に行く意図であったにせよ、必要もない乾児のNやMらを伴って飲酒のうえ、被害者の勤務する同キャバレーに赴き客席で飲酒しながら右Sを呼んで示談の話を持ち出し、その間トイレで行き会った前記Yと言葉を交した際、Nがいきなり同人を殴りつけ、更に閉店後同キャバレー付近の路上において同人に対しMが俺を知っているか、裁判の時俺が欧ったとよくもいったな、俺たちは懲役なんかこわくない等というのを傍観し、M、Nが暴行を加えるまで何ら制止していないのであって、被告人は少くとも保釈許可決定に指定された条件の五項にいう被害者に面接しもしくは面接要求をしてはならないとの条項には違反したものといわなければならず、被告人や共犯者とされるM、Kおよび前記Nはいずれも暴力団体構成員であって、被告人には暴力事犯による罰金等の前科があることをも考慮すると、被告人が保釈許可の指定条件五項に違反したことを理由として本件保釈を取り消し保証金を没取した原決定は相当であって、これを違法不当とすべき理由は何ら存しない。論旨は理由がない。

よって、刑事訴訟法第四二六条第一項により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 龍岡資久 判事 宮脇辰雄 桑田連平)

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